我妻くんが拾ってくれたルーズリーフを素早く受け取る。

あれ?

わたし今、我妻くんに「比高」って呼ばれたような気がするんだけど⋯⋯。

気のせいかな?

⋯⋯きっと、気のせいだよね。

我妻くんとは一年生のとき別のクラスだったし、話したことのないわたしの名前なんて覚えているはずがない。

そんなことを気にするよりも先にルーズリーフを回収しないと!

廊下に散乱していたルーズリーフは我妻くんとふたりで拾ったからあっという間に片付いた。


「これで全部かな。ほら、これも比高の」

あっ⋯⋯また比高って。

さっきのは気のせいじゃなかったんだ

別の世界に住んでいる我妻くんがわたしの名前を知ってくれていたなんて、なんだか胸の奥がジーンとする。

「あの、一緒に拾ってくれてありがとう」

「別に。俺のもあったから」

我妻くんはルーズリーフの束を小脇に抱えると先に階段を下りていった。


MEBIUSのファンの子たちが我妻くんは塩対応だってよく話していたのを聞いたことがある。

だけど、階段から落ちそうになったわたしを迷わず助けてくれたし、わたしのせいで散らばったルーズリーフを文句ひとつ言わずに拾ってくれた。


それに名前だって覚えてくれていたし⋯⋯塩対応っていうよりもクールな人なのかな。


「って⋯⋯考え事してる場合じゃなかった! わたしも急がないと」

わたしは我妻くんと一定の距離を保ちながら教室へと戻った。