「わ、わわわっ」
足は階段から離れて、手に持っていたクリアファイルと筆箱がくるりと空中で一回転。
ひらひらと舞う紙の隙間からよく知る男の子が現れて、気づくとわたしは彼の胸の中へと飛び込んでいた。
「あっ、ぶねーな」
耳元で聞こえた声に思わず顔を上げる。
力強い腕はわたしを片手で支えながら、もう片方の手で手すりを掴んでいた。
「ご、ごめんなさい!」
階段から転げ落ちる寸前のところを助けてくれた彼に慌てて謝る。
「怪我は?」
さらりと揺れた黒髪の隙間から切れ長の目があらわになり、ドクンと心臓が跳ねた。
「⋯⋯大⋯⋯丈夫」
わたしを助けてくれたのは、同じクラスの我妻奏人くん。
端正な顔立ちと八頭身というモデルのようなスタイルをしていて、周りから一目置かれている存在。
だけど、我妻くんが一目置かれている理由は他にもあって、それは学校内で大人気のバンドグループ・MEBIUSのメンバーだから。
MEBIUSは三人組のグループで我妻くんはボーカル兼ギターを担当している。
クラスメイトの話によると昨年、文化祭のステージで歌う我妻くんの姿を見て、さらにファンが急増したんだとか。



