「なぁ、あの件だけど」

俺たちの間にはずいぶん長い間、保留になっていた話がある。

「その話も進めないとね。でも、ラブソングのほうが先かな。たった今、新がSNSで告知しちゃったから」

「は?」

自分のスマホでMEBIUSのアカウントを見ると、そこにはライブの出演告知と共にこう書かれてあった。

《MEBIUSがラブソングを初披露!》


「おい、新。どこにラブソングがあるんだよ」

俺が目を合わせると新は口笛を吹きながら視線を逸らす。


新は切り替えが早いけど、それ以上に気も早い奴だってことを忘れていた。

「⋯⋯どうする千里。とりあえず書いてみるか?」

「うーん。いっそ誰かに作詞だけでも頼んでみる? そういうのもたまにはいいんじゃない」

千里は「勉強にもなるし」と付け加えた。

「いいじゃん! 新しいMEBIUS」

何事にも前向きな新は机から身を乗り出して賛同する。

「でも、歌詞を書ける人なんてそう簡単には見つからないか」

「だな」

ライブに出演するのは一か月後。

それまでに歌詞を書ける人間を探すのは極めて困難だ。

やっぱり俺と千里でどうにかするしかないか。

鞄から筆箱を手に取り、なんでもいいから捻り出そうとしたそのとき、比高のルーズリーフが目に入った。

「⋯⋯いた。ひとりだけ歌詞を書けそうな奴が」

「え?」

「本当か奏人!」


俺の言葉に千里は不安そうな表情を、新は満面の笑みをそれぞれ浮かべた。