そしてニューヨークに転勤になって約４年、相馬は６０歳で退職を決めた。

会社としては後５年働いてほしかったそうだが、相馬は日本に残してきた奥様の健康的な問題で退職を決めて、日本の家族のもとに帰る事になった。

相馬が信頼して色々なことに挑戦させてくれたことが、今の由里の新しい事業につながっていると確信できる。

花屋やケイタリング業者、ドレスショップ、園芸店、高級レストランのシェフたち、沢山の人脈ができた。

そして、もう一つ幸運なことにニューヨークのマンハッタンのセントラルパークの近くのビルの1階に、丁度小さな事務所スペースがあいたので借りることができた。

それも相馬の知り合いの持ちビルで日本人の女性がニューヨークで事務所を構えると聞いて格安の家賃で貸してくださったのだ。

ありがたいことだ。

今度その社長にお礼をと思っているが相馬はなかなか会えない人だから気にしなくてもいいと笑っていた。

最後まで由里を気にかけてくれて、最高の置き土産をもらった恩人の帰国を見送ったのはついさっき。

相馬は午前の早い便で東京の家族のもとに帰っていった。今日からは相馬に頼ることなく仕事をとっていかなくてはならない。

由里はそんなことを感慨深く思いながら，オフィスの整理に精を出す。

退職前にプランナーという仕事を始めるにあたって各役員に挨拶に回った。

すぐに仕事がもらえるわけはないと思っていたが、ＣＦＯのミスターバートンからご両親の５０周年の結婚記念日を祝うパーテｲのプランニングを頼まれた。

第1号のお客様、心を込めて精いっぱい企画を出して楽しくてみんなの心に残る日となるように、頑張りたいと思っている。

アメリカでも５０周年はゴールド婚。日本の金婚式と同じなのだと初めて知った。

まだまだ学ぶことは多い。