晴輝が不安そうに眉を落とす。僕は「まあ、何話か暗記しておいて、被らなそうなやつを話したらいいんじゃないかな?」と言いながら怖い話がまとめられているサイトを開いた。



それから二十分ほどして、僕たちの乗ったバスが旅館に到着した。バスを降りて僕は旅館を見上げた。二つの館の立派な旅館だ。名前は「宝来館」と書いてある。

「やっとついたか〜」

グッと静瑠が体を伸ばす。紫乃がもう一度あくびをした。

「立派な建物だね」

僕がそう言った時だった。

「……………………て……………………」

誰かの声が聞こえたような気がして、僕は辺りを見回す。小さな声だった。だけど、とても悲しそうだった気がする。

「瑠依、どうした?」

菫が訊ねる。僕の周りにいるのは、楽しそうに笑うクラスメートだけだ。僕は「何でもない」と返して笑う。

「うわ〜!綺麗な旅館!」

「絶対布団フカフカだよね!」

聞き覚えのある声に、僕は顔を後ろに向ける。他のクラスのバスもいつの間にか到着していた。その中に、陽菜と綾、そして透の姿を見つける。

三人は楽しそうだ。でも、僕の胸の奥がチリチリと痛くなった。