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(うっわ、最悪だ……)

 結香は心の中でそうつぶやいた。何故なら、今朝気まずい思いをしたばかりの黒髪イケメンの彼が、結香の向かう先に立っていたからだ。

 早々顔を合わせる機会もないと考えていたのに、まさかその日に鉢合わせることになるだなんて思ってもいなかった。

(仕方ない。今日はエレベーターじゃなくて階段を使おうかな)

 結香はUターンしようとした。けれどタイミング悪く、こちらに振り向いた彼と目が合ってしまった。

「お疲れ様です」
「……お疲れ様です」

 さすがに無視するわけにもいかず、挨拶を返す。その間に、エレベーターが七階フロアに到着した。中には誰もいないみたいだ。
 先に搭乗した彼は、開の釦を押したまま、にこやかな笑みを浮かべて結香が乗りこんでくるのを待っている。