(もしかして、ウチの社員ってわけじゃないのかな。余所の企業の人? 何かの取引で出向いてきているとか?)
結香は考えたが、相手に確認してみないことには、その答えには辿りつけないだろう。
それに結香はもう一つ、この男性に対して気になっていることがあった。
(この人って会うたびに、いつもいい匂いがするんだよね)
しかも、毎回その香りが違うのだ。どこのブランドの香水をつけているのか気になっているのだが、互いの素性も知らないような関係性でそれを本人に聞くことは、さすがに憚られる。
男性が結香の隣で立ち止まったところで、エレベーターが到着した。
結香が先にエレベーターに乗り込み、開のボタンを押す。黒髪イケメンの彼も小さく会釈して乗りこんできた。
「何階ですか?」
「十二階で頼むよ」
「分かりました」
十二の釦を押した後、商品開発部がある七階で止まる釦も押す。
(十二階は会議室があるフロアか。部署フロアだったら、どこ所属の人か見当がついたけど……やっぱり他所の企業の社員なのかな)
そんなことを考えていれば、彼からふわりと、いい香りが漂ってくる。



