「――思い出しました。真宮さんと初めて会った時のこと」
「それは嬉しいな。……この会社を無事に継ぐことが決まって、ここで君を見つけた時は、運命だと思ったんだ。あの時、君の言葉に勇気をもらえたから、俺はより一層尽力することができたんだよ」
「そんな……買いかぶり過ぎですよ。全部真宮さんが努力してきた結果です」
結香は謙遜する。あの時はただ思ったままを伝えただけで、優雅にそこまで言ってもらえるほどの特別なことをしたつもりはない。優雅が抱えているものの大きさも知らずに、むしろ無神経なことを言ってしまったのではないか。
結香は浮かない顔になったが、優雅は首を横に振り、改めて感謝の言葉を伝える。
「いいや、あの時白石さんと出会えたから、今の俺がいる。感謝しているよ。……あの日からずっと、君のことばかり考えていたんだ。連絡先を聞かなかったことをずっと後悔していたんだよ。本社のすぐそばの喫茶店で会えたのなら、またこの近くで会えるんじゃないかと期待していたんだ。まさかウチの社員だったとは思わなかったけど……次に会えた時には、後悔することのないよう絶対に声をかけようと、そう決めていたんだ」
「そう、だったんですか?」
「あぁ。ついでに白状してしまうけど……君と会いたくて退勤時間を合わせていたといったら、不快な気持ちにさせてしまうかな」
――そう言われてみれば、確かに。
優雅とは、結香の退勤時間に遭遇することが多かった。最上階にある社長室で仕事をしている優雅と、商品開発部がある七階で出くわすことが多かったのは、優雅が待ち伏せていたからということだ。
「不快になんてなりませんよ」
「……そうか」
結香の言葉一つでほっとしている優雅が可愛く思えて、結香は口許を緩めてしまう。



