「気づけば白石さんと、お茶をしながら話しこんでいてね。話の流れで、俺は悩みを打ち明けていたんだ。その時、これから何をしたいのかも分からない、空っぽだった俺に、白石さんが言ってくれたんだよ」
『そうですね……私なら、ですけど、まずはやってみたらいいと思います! 立ち止まったままじゃ気づけないこともあるかもしれませんが、進んでいけば、見える景色も変わっていきます。その中で、自分の好きなものや大切にしたいと思えるものが、きっと見つかりますよ』
優雅の話を聞いていれば、当時の記憶が少しずつよみがえってきた。
確かあの日は、欲しかった限定のオードトワレを買うことができて、幸せな気持ちで喫茶店に入った。甘いケーキに舌鼓を打っていれば、隣から視線を感じて――これまで生きてきて出会ったことのないくらい、眉目秀麗という言葉がぴったりの男性と視線が重なったのだ。
そこで、男性の目が憂いを帯びていることに気づいてしまって。
『……あの、何かあったんですか?』
気づけば、そう声をかけていた。



