「私、てっきり……」
昨日、静香と一緒にいた優雅の照れくさそうな表情が、脳裏に焼き付いて離れなかった。優雅は静香に恋情を抱いているのだと、そう思っていたのだが――結香が勘違いしていただけだったようだ。
勝手に傷ついて、これ以上苦しい思いをするのが嫌で。優雅の口から静香が好きだと聞かされてしまうのが怖くて、避けてしまった。
後悔に苛まれた暗い顔をする結香に気づいた静香は、廊下の突き当りにある扉を指さした。
「真宮なら、あの部屋にまだいらっしゃいますよ」
「え? でも……私が行っても大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫です。貴女が行けば、真宮の機嫌もよくなると思うので」
お茶目にウィンクしてみせた静香は、クールで物静かな人という印象が強かった。しかし実際に話してみて、その考えは変わった。
同性の結香から見ても、静香はとても可愛らしい人だと思う。そして優しく、慈愛に満ちた人だとも思った。
上司である優雅のためというのが一番の理由だろうが、それでも、顔見知り程度の仲である結香に親切にしてくれて、ウジウジと怖気づいている背中をそっと押してくれたのだから。
「……私、真宮さんと会ってきますね。斎藤さん、ありがとうございます」
「いえ。真宮のこと、よろしくお願いしますね」
感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた結香は、優雅がいるという奥の部屋に向かった。



