甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~



「ちょうどよかったです。会えた時には、貴女にこれを渡そうと思っていたので」

 近づいてきた女性に小さな紙袋を手渡された。反射で受け取った結香は訳が分からず混乱したが、そのまま中を見るように促され、仕方なく言う通りにする。

「このボトルは……もしかして、香水ですか?」

 紙袋に入っていた小箱を開けてみれば、ころんとしたフォルムが可愛いボトルが入っている。手のひらに収まるサイズの小さなそれを鼻に近づければ、微かないい香りが感じられた。
 甘く濃厚でいて、仄かなフルーティーさも感じられるそれは、金木犀に近い香りだ。

「えぇ。昨日、渡したい相手がいるからと、香水を作ることのできる店舗に赴いてご自身で作られていたんです。つい先ほど、そろそろ時間だと言って帰っていかれたかと思えば、何故か戻ってきて、不要になったから捨てておくように言われました。ですが私には捨てられませんでした。こちらをどうするかの判断は、貴女にお任せした方がいいと思ったんです」
「え? えっと、それってどういう……」

 情報量が多くて処理しきれない。
 結香は混乱する頭を働かせながら、浮かび上がる一つひとつの疑問を言葉にしていく。