「それで? 俺を避ける理由を聞いてもいいかな」
「……別に、避けてなんていませんよ」
「それじゃあ、俺の目を見て」

 俯けば、顎下に手を添えられて、強制的に顔を上げさせられる。間近に迫った優雅の顔は真剣みを帯びていて、そのまなざしから逃げることは敵わない。

「昨日もあの男と会っていたみたいだが……もしかして、よりを戻したのか?」
(あの男?)

 優雅が何の話をしているのか分からず内心で首をひねったが、直ぐに元カレの洸樹のことを言っているのだと合点がいった。

「……昨日、見てたんですか?」
「あぁ。君があの男と、二人で並んで話している姿をね」

 あの時視線が合うことはなかったが、結香たちが優雅に背を向けて話していた姿を、運悪く見られてしまったのかもしれない。
 結香が黙り込めば、それを肯定と受け取ったらしい優雅は、その端正な顔を辛そうに歪めた。

「……無言は肯定ということかな」
「……」
「……そうか。無理に呼びとめてすまなかった」

 背を向けた優雅は、一人で部屋を出て行こうとする。
 結香は咄嗟に呼びとめようとしたが、その口から声が出る前に、扉は静かな音を立てて閉じられた。