「嫌な気持ちにさせていたんだとしたら、それは申し訳ないと思うけど……洸樹ってさ、私が香水の話とかしても、つまんねーとか言ってすぐ不機嫌になってたよね」
「はぁ? それはそうだろ。興味ねー話なんだから、聞いても仕方ないじゃん」

 洸樹は不思議そうな顔で眉を顰めながら、首を傾げている。

 結香も別に、自分の好きなものを、相手にも好きになってもらいたいわけではない。押し付けたいわけではなかった。
 
 けれど、それでも。

 少しでもいいから話を聞いてくれて、頷いてくれるだけでよかった。自分の好きなものを否定されることが、悲しかった。

『俺は、好きなものについてそんなに楽しそうに話すことのできる君を、好ましく思うよ』

 ――その時、優雅の顔が頭に浮かんだ。
 結香の話に、笑顔で耳を傾けてくれた。否定することなく、結香の“好き”の気持ちを受け入れてくれた。

(私……真宮さんのことが好きだ)

 とっくに芽生えていた恋心を偽ることなど、もうできそうにない。
 結香は優雅のことが好きになっていた。だからこそ、今ここで、きちんとけじめをつけなくてはならない。