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 その日の午後の仕事は散々だった。準備した資料が一部足りなかったり、打ち間違いをしてしまったりと、小さなミスを連発してしまったからだ。

 トボトボと肩を落としながら会社を出れば、後ろから結香を呼び止める声がする。

「おい、結香」
「……洸樹? 何でここに……」
「お前に話があってさ。ちょっと付き合ってよ」
「……無理。悪いけど、今はそんな気分じゃないから」

 何故会社の外で洸樹が待っていたのか。結香は驚いたが、付き合っている当時、普通に勤務先を伝えていたことを思いだした。
 結香は洸樹を置いて一人で歩き始めるが、それで諦めてくれることもなく、洸樹は後を追いかけてくる。

「結香、待てって! お前さぁ、何で連絡も無視すんだよ」

 洸樹に腕を掴まれてしまい、結香は渋々その足を止めた。

 ――そもそも洸樹とは、最後は喧嘩別れのような形で別れている。だけど、特に連絡先をブロックはしていなかった。このまま連絡を取り合うこともないだろうと思い、未だに洸樹と繋がっていることすら忘れていたのだ。

 だからこそ、この前街中でばったり出くわした日、洸樹からメッセージが届いてすごく驚いた。

 それ以来、洸樹からは毎日のようにメッセージが届いている。
 しかし結香は返信していなかった。