「――歓談中失礼します。そろそろ時間になりますので、ご移動をお願いします」

 結香が質問に答えようとしたタイミングでやってきたのは、艶やかな漆黒の髪を後ろで一つに纏めている、美しい女性だった。
 眼鏡をかけ、黒いスーツに身を包んでいるその姿からは、利発そうな雰囲気が漂っている。

「もうそんな時間なのか」
「はい。そろそろ出ないと間に合わないかもしれません」
「……わかった。白石さん、呼び出しておいてすまないが、もう行かないと。ここは俺の奢りだから、好きなだけ食べていってくれ」
「……はい、分かりました。ありがとうございます。お仕事頑張ってくださいね」
「あぁ。また連絡するよ」

 そう言って笑った優雅は、振り向くことなく店を出ていった。
 優雅と何か話しながら、並んで歩いていった女性との姿が、すごくお似合いに思えて。

 ――結香の胸に、チクリとした痛みが突き刺さった。