甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~



「俺は、好きなものについてそんなに楽しそうに話すことのできる君を、好ましく思うよ」

 優雅の言葉一つひとつに、鼓動が高鳴るのが分かる。勝手に顔が熱を持つ。
 結香は気づかれないように胸の辺りをぎゅっと抑えながら、自分に言い聞かせた。

(勘違いしちゃ、だめ)

 この人を好きになっちゃだめだ。多分、私とは生きる世界が違う人だから。
 今ならまだ、引き返せる。

「……ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて、嬉しいです」

 結香は笑顔を作って礼を言う。そして、半分ほど残っているオムライスに手を付ける。
 濃いデミグラスソースの味が口いっぱいに広がるが、少し冷めてしまったからか、食べ始めよりも少しだけ物足りない味に感じてしまった。