甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~



「あ、いい匂い……これは、ジャスミンの香り?」
「あぁ、そうみたいだね。微かに柑橘っぽい香りもするな」
「重すぎないっていうか、軽いのにしっかり香りを主張してくる感じがありますね。こっちは桜の香りみたいですよ! あ、金木犀の香りもある!」

 結香は目についたテイスティング用のボトルを手に取り、その香りを確かめる。柔らかな花の匂いだ。心に寄り添ってくれるような、どこか落ち着く気持ちにさせてくれる。

「ここの香水は、アルコールや水を一切使用していないんだ。一つひとつ手作りで調合・製造されているようだね」
「え、そうなんですか? すごいですね」
「あぁ。それにオイル香水は、香りの持続性が高いと言われているからね。この店のものも、六時間以上は香りが継続するらしい」
「へぇ。あ、それに保湿効果もあるみたいです!」

 二人で気になる香水の香りを楽しみながら、掲示されている説明を読んだり、店員に話を聞いたりしていれば、時間はあっという間に過ぎていく。

 その後も、優雅が気になっているというブランドショップから、百貨店の香水売り場まで、様々なショップを巡った。普通の香水だけでなくお香に練り香水まで、様々な香りに触れることができて、匂いフェチの結香は満たされた気持ちでいっぱいだった。