甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~



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「ここは……香水のお店ですよね?」
「あぁ。オイル香水を専門に取り扱っている店舗だね」

 優雅に連れられて辿り着いた先は、新宿だった。
 真っ白な外壁に赤い屋根が可愛らしい店だ。名前だけは聞いたことのあるブランドの香水ショップだった。

「さぁ、行こうか」

 車から下りる際、優雅は当然のように手を差し出してエスコートしてくれる。

 余談だが、優雅が結香のためにと用意してくれた服は、結香も知っている高級ブランドのものだった。昨日着ていたスーツを着るのも嫌だろうと、結香が寝ている間にわざわざ用意してくれていたのだ。カシュクールデザインの黒いワンピースは、シンプルながらも上品なデザインのものだ。

 この店にくるまでも、優雅が手配してくれた黒塗りの高級車に乗ってきた。もちろん運転手付きだ。
 ……本当に、優雅は何者なのか。結香の中でますます疑問が膨らんでいく。

「真宮さんは、お香や香水に興味があるんですか?」

 昨日料亭でも、最近愛用しているというお香について教えてもらった。匂いフェチの結香も香水の類には興味があったので、趣味の一環として独学ながら勉強していたのだが、優雅は結香が知らないような知識まで教えてくれた。

「そうだね。まぁ、リサーチみたいなものかな」
「リサーチ?」

 一体何のリサーチなのだろう。結香は不思議に思ったが、店に足を踏み入れた瞬間、ふわりと香ってきたいい匂いに、意識はそちらに移っていく。