「アンタのそのクセ、相変わらずね」
「へへ。いい匂いには目がないものでして」

 結香の幼馴染である美樹とは、小学校から高校までを共に過ごしてきた。高校卒業を機に大学は別々になってしまったが、社会人になって五年が経った今でも、月に一度はご飯に行くくらい仲が良い。結香の匂いフェチについても理解してくれているので、つい熱く語ってしまったのだ。

「私は気にしないけどさ。洸樹(こうき)くんとはそれが原因で別れたんでしょ?」

 洸樹とは、結香の元カレだ。「お前、犬かよ」とドン引きさせてしまった男である。

 交際期間は半年ほどで、恋人として良好な関係を築けていたはずだ。そこで気を許し始めた結香が、自身の癖ともいえる匂いフェチを隠すことを止めたところ、何故か洸樹と口喧嘩する頻度が増えてしまった。そして、最終的にはお別れすることになってしまったのだ。

 別れてから一年近くは経つので、引きずっているということはない。けれど時々、思い出してしまうことがある。
 自分の好きを語ることは、そんなにいけないことだったのか。自分でも気づかぬうちに、洸樹を不快な気持ちにさせていたのだろうか、と。

「匂いに敏感なのはいいけどさ。時と場合を考えて発言しなよ」

 美樹は、結香がこれ以上傷つくことのないようにと心配してくれている。
 それが分かるから、結香は素直にうなずいた。