甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~



「……」
「食欲はあるみたいだな」

 ――本当に、心の底から思う。今すぐこの場から消えてしまいたいって。

 結香は真っ赤な顔を隠すように掛け布団を手繰り寄せた。どうせ揶揄われるに決まっている。そう覚悟していたのだが、しかし優雅は優しかった。

 結香を茶化してくるようなこともなく、ルームサービスの朝食を頼み、二日酔いに効く薬まで用意してくれた。更には着替えまで。もう頭が上がらない。

「今日は予定通り、買い物に付き合ってもらえると嬉しいんだが……体調は大丈夫そうか?」
「あ、そういえば……はい、全然平気です。どこまでもお供します」

 結香は力強く頷いた。正直、そんな約束をしていたことすら頭からすっぽり抜け落ちていたのだが、今の結香にそれを断れるはずもない。荷物持ちでも何でも、結香に出来ることなら喜んで引き受けるつもりだ。