「あの、すみません。実は私、昨日は飲み過ぎてしまったみたいで、後半の記憶が全然なくてですね……」
「あぁ、だろうな」
頷いた優雅は、縮こまっている結香を安心させるように微笑んだ。
「先に言っておくと、昨晩は何もなかったよ。酔いつぶれてしまった白石さんをこのホテルに連れてきて、君をベッドに寝かせた後は、俺は隣の部屋で寝ていたからね。スーツは皺になると思って着替えさせてもらったよ。なるべく見ないようにはしたが……気分を害してしまったようなら、すまなかった」
何もなかったという事実には安心したが、結香の予想通り、着替えさせてくれたのは優雅だったようだ。
話してくれた優雅は平然とした顔をしているし、変に意識しているのは結香だけだということだが、それがより羞恥心を掻き立てられる。顔から火が出そうとはこのことだと思った。
「いえ、それはもう、全然……気にしてはないですけど……その、大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした……」
結香はしどろもどろになりながらも、蚊の鳴くような声で謝罪をする。
これまで、記憶がなくなるほどに飲んで迷惑をかけた経験などなかった。しかも相手は、昨日はじめて、まともに会話を交わしたばかりの男だ。
居た堪れなかった。早く帰ってしまいたい。
しかしそこで、結香の腹の虫が小さな音を立てた。



