「白石さんは、週末の予定はあるのか?」
「予定、ですか? いえ、特にはないですね」
「そうか。それなら明日、買い物に付き合ってくれないかな」
「買い物、ですか? ……私が?」

 結香はコテンと首を傾げた。ふわふわしている頭で数秒ほど考えてみたが、お断りさせてもらうことにした。

 何故って、明日は映画に行って、カフェに行く予定だってある。誰かと約束をしているわけでもない、おひとり様ではあるが、一人で自由に過ごせる休日もまた、結香にとっては欠かせない時間だった。――けれど。

「……えっ?」

 結香が断る前に、無言で見せられた伝票。そこに記された金額に、結香は目を見開いた。一瞬で酔いが覚めた気分になった。
 高いだろうとは思っていたが、それは結香の想像を超えた額だったからだ。

「あぁ、気にしなくていいよ。先に言っていた通り、ここは俺の奢りだからね」
「……ズルくないですか?」
「ん? 何のことかな」
「……分かりました。明日の買い物、お付き合いさせていただきます」

 にっこり笑っている優雅に、してやられたと思いながらも、結香は渋々買い物に行くことを了承した。
 騙されたような気分になった結香は、それならばと更に食べ進め、酒を飲んだ。外で飲んで酔うことなど滅多にないのだが、普段は口にすることのないような高級な酒に、ついついペースも早くなってしまい――そこで、結香の意識は途切れた。