優雅に連れられて到着した店は、会社から歩いて十分ほどの場所にある、老舗の料亭だった。大通りから一本入った細い路地に佇むその店は、数寄屋造りの建物で趣きが感じられる。
通された座敷席に優雅と向かい合う形で腰を下ろしたところで、結香は無意識に小さな吐息を漏らしてしまった。
「こういう店はあまり好みじゃなかったかな?」
結香の強張った表情を見て、優雅は眉を下げる。
結香は慌てて首を横に振った。
「いえ、そんなことないです! すごく素敵なお店だと思いますけど、私、こういうお店にあまりきたことがないので……気後れしてしまって」
「そういうことか。この店は完全個室制だから、周りの目を気にすることもない。肩の力を抜いて、好きなだけ食べてくれ」
ソワソワしている結香とは正反対に落ち着き払っている優雅の様子からして、彼は普段からこういった店によく足を運んでいるのだろう。
一体、優雅は何者なのか。
同じ会社に勤めているならば、確実に結香よりは上の立場にいる人間だ。直感でそう思った。



