「別に、嫌そうな顔なんてしてませんよ」
「そう?」
「はい。ただ……ここで会うとは思っていなかったので。少し気まずいなと思っているだけです」
「白石さんは素直だね。気まずい理由は、昨日君が、俺の匂いについて触れたこと?」
「……はい、そうです」
「ふっ、そうか」
結香が頷き返せば、優雅はおかしそうに笑う。
結香的には面白いことを言っているつもりなどないので、何が優雅の笑いのツボを刺激しているのか分からず内心で首を傾げてしまう。
けれど、社内で何度か見かけた優雅は常に無表情で、一切の隙も感じさせない冷徹そうな人だと思っていたのだ。
(真宮さんって……こんな風に笑う人なんだ)
昨日も思ったことだが、実際に話してみれば、真宮優雅という男は結香の想像していた人物とは違っていた。
毅然とした態度で社内を歩くクールな面持ちも素敵だったけれど、目の前で相貌を崩して笑っている今の表情の方が、結香は好きだと思った。



