イルメラだけが座ったままのリーゼに寄り添ってきてくれたが、右目から流れる涙は止まらなかった。

「ごめんなさい、リーゼ。こんなことになってしまって」

イルメラが泣いて謝っているが何も耳に入ってこない。今までの自分とイルメラの人生は光と闇ほどに違い過ぎた。それが今頃になって本当は同じ公女だったというのか? どうしても遣り切れない思いがふつふつと沸いてくる。

「怒ってるの? リーゼ。そうよね、いくら優しい貴女でもこんなこと、許せるわけないわよね。どうかマルゴットの脅迫に負けてしまったお母様を許して」

リーゼは右目の涙を拭うとイルメラに笑って見せた。

「いいえ、貴女にもお義母様にも何も怒ってなどいないわ」

「リーゼ、一生のお願いがあるの。これからは貴女にわがままも言わない。辛くも当たらない。だから最後のお願い。貴女には貴女を愛してくれるフリッツがいる。だからあたしとカミル様の結婚を後押しして」

愕然とした。なぜ? どうして? こんなことになってしまったの?

「イルメラ、でもね……」

リーゼはイルメラの目を見て、いつもなら絶対言わないであろうことを言った。

「私も、カミル様が好きなの」

イルメラに自分の意思をはっきり言うのははじめてだった。いつもならすぐに怒って喚き散らしそうなのに、イルメラは憐れむようにリーゼを見た。

「可哀そうなリーゼ。貴女がカミル様を好きでも、カミル様はあたしを選んだのよ」

「!」

そうだった。イルメラを連れてきたのは他でもないカミルだ。自分の知らないところですべての話をもうみんなでつけているのだ。これ以上イルメラに何かを言う権利もない。

「わかったわ、イルメラ。でも、ごめんなさい。一人にさせて……」

リーゼは泣きながら逃げるように自室へと走って行った。