ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

「嘘じゃないわ。死刑を恐れたマルゴットは呪われし子が生まれたと偽証した。当時召使だったあたしのお母様を他言したら殺すと脅迫してね。それ以来お母様はマルゴットに脅迫され続けた。マルゴットは自分が疑われないように監禁塔に幽閉された貴女の面倒を見つつ、監視していたのよ」

「嘘よ! マルゴットはそんな人じゃない!」

「でもこれが真実なの。だから貴女にはちゃんと大公国を継承する権利があるのよ」

「そんなこと今頃言われても……」

「そうよね。ああどうか、こんな話をしなければならないあたしを許して……」

イルメラはハンカチーフで目頭を押さえた。リーゼは包帯で隠していない右目から止めどなく溢れ続ける涙を拭うことはしなかった。今まで19年間、ブラックオパールの瞳のせいでこんなにも辛かった人生が全部嘘だったなんて。苦しくて息ができない。

皆が沈黙する中、いきなりニクラス5世の高笑いが部屋に響いた。

「あーはっはっ。よかったではないかリーゼ! 生贄花嫁にされないどころか婿を迎えて大公国を継承できることになったのだ! こんな目出度いことはない。わしも嬉しく思うぞ。今まで苦労した分、幸せになるがよい」

「お爺様……」

「それにイルメラなら教養と言い美しさと言い、ヴォルフ家の花嫁に申し分ない。なあ、カミル?」

内臓が締め付けられるような強烈な痛みに襲われているリーゼを真に苦しめたのは、笑顔でカミルが言った次の言葉だった。

「ええ、そうですね。お爺様」

カミルの賛同の言葉が止まりかけのリーゼの心臓を一突きにし、殺した。

「ではもうお開きじゃ。皆部屋に戻れ」

そう言うと真っ先にニクラス5世はザシャの両親の手を借りて出て行った。カミルもザシャもすぐに立ち上がり、リーゼには見向きもせず出て行った。