「あの指輪はドラゴンの命の指輪だ。ルビーを破壊すればドラゴンの命も失われる。あの儀式の夜、ドラゴンは指輪を落としたことに気付いていなかった」

「今の時代、ドラゴンはこの世界に自分の意思では現れることはできない。召喚されるか支配者の命がないと。だから122年間、探しに来たくても来れなかった」

「そうだ。その指輪と引き換えに儀式を終わらせることができるかもしれないがそれは……」

「私の交渉力次第ということですね」

「うまくいく保証はない。いずれにしても生贄花嫁の娘は用意しておく必要がある。管理する森の生きとし生けるものすべてのために。それが我がヴォルフ家当主の責務だ」

「御意」

カミル6世はヴェンデルガルトに向き合った。

「ありがとう、ヴェンデラ。いろいろ骨を折ってくれて。このままカミル7世に協力してやってくれ。だがこれだけは信じて欲しい。わしがこの儀式を終わらせたい理由は、お前を失ったからだと」

「わかっています、カミル様」

「時間だ。幸運を祈っている」

そう言ってカミル6世はカミルとヴェンデルガルトの前から消えた。

放心状態のヴェンデルガルトにカミルは聞いた。

「リーゼの瞳のことだがお前も気付いていたんだろ? なぜリーゼの瞳はあんなことに?」

「そんなことは知らないさ。でも黒蛇筋の死の森にはブラックオパールの瞳に関する薬品があると聞いたことがある」

「やはりそうか」

「これからどうするんだい? カミルの7代目」

「俺は指輪でドラゴンと交渉する。そして必ず勝つ」

「リーゼは?」

「リーゼは死なせない。たとえどんな手を使っても」

「あたしはね、もうあたしみたいな思いをする娘を生み出したくないんだ。頼んだよ、カミルの7代目」

「ああ、任せておけ」

リーゼの命だけは落とさせない。そしてドラゴンとの交渉に打ち勝ち生贄花嫁の儀式を終わらせる。そう強い決意をしてカミルはヴェンデルガルトの棲家を後にした。