カミルが身を乗り出して聞く。

「そんなことは知ら……いや、ドラゴンはこう言った。カミルの名を継ぐ者を自分の命に代えて愛する者が現れた時、呪われし名から解放されると」

「どういう意味だ? どうすれば命を代えて愛されていると証明できる?」

「そんなことは本当に知らないさ。でもカミル6世は死ぬ直前にあたしに頼んだ。きっとあたしはまだその時生きているだろうから、もしカミル7世がこの儀式を終わらせようとするなら協力してやってくれと」

カミルは胸のポケットから紐で縛られた小さな髪の毛の束を取り出してヴェンデルガルトの前に置いた。

「カミル6世の髪の毛だ」

「どこでそれを?」

「墓を暴いて少し頂戴した。これを使ってカミル6世を降霊しろ」

「なんだって!?」

「直接話がしたい」

「……嫌だ」

「なぜだ?」

「随分と歳を取ってしまったこんな姿を見られたくない……」

俯いてもじもじしているヴェンデルガルトを見てカミルは、座っている椅子からずり落ちそうになった。

「女はね、いくつになっても心の中は乙女なのさ」

カミルは内心呆れかえっていたが、ここで機嫌を損ねられてもと宥め賺すことにした。

「心配するな。カミル6世も亡くなった時は高齢だったんだから。それに実際会ってみればお互い懐かしくなって思い出話に花が咲くはずだ。頼む、降霊してくれ。この通りだ」

カミルは両手を合わせヴェンデルガルトに頭を下げて頼み込んだ。渋々ながらも承諾したヴェンデルガルトは降霊の準備をはじめた。

二人でテーブルを囲んで座る。ヴェンデルガルトはテーブルの上に置いた器の中に呪文を唱えながら植物や動物の死骸を入れて火を点け、最後にカミル6世の髪の毛の束も入れて燃やしカミルと手を繋いで呪文を唱え続けた。カミルは目を閉じてその時を待った。

しばらくするとすうっと冷たい空気が部屋の中を流れた。目を開くとそこには、代々の当主の肖像画が飾られている城の部屋で見るのと同じ、カミル6世が立っていた。