「すまない、リーゼよ。わしもお前を生贄花嫁などにしたくない。おめおめとお前を差し出すことなどしたくない。しかし、なぜかお前の存在を狼筋の男に知られてしまったのだ」
リーゼは先日の城下町での出来事を思い出した。あの時に違いない。
なぜあんなことが起こってしまったのだろう?
ただの偶然なのか、それとも誰かに仕組まれたことなのか?
リーゼがブラックオパールの瞳であることを知っているのは父親の大公、継母の大公妃ベルタ、義妹のイルメラ、そして幼馴染のフリッツの四人だけだったはず。
それを考えると偶然起きたことと考えた方が救われる気がした。
「狼筋の男の使者が来て、お前を生贄花嫁として差し出さねばこの大公国に攻め込むと言われてしまった。強大な兵力を持つ黒い森の管理者を敵に回したらこの国など一溜も無い。無力な父をどうか許しておくれ」
大公は涙を流して頭を下げた。父親の涙も頭を下げるところも見るのははじめてだった。
「お父様、お顔をお上げください」
顔を上げた大公にリーゼは笑顔で言った。
「私は呪われし子。お母様のお墓の隣に私のお墓もあります。本当であればもうとっくにこの世にはいない存在でした。それなのにお父様の御慈悲でここまで生かしてもらいました。お父様には感謝しかありません。お父様とこの国を守るためなら、私は生贄花嫁になっても構いません」
「リーゼよ……」
「だからお父様、もう泣かないで」
そういうリーゼも泣いていた。
二人は涙を流したまま抱きしめ合った。
父親の胸の中で普通の親子のようにはじめて大声を上げて泣いた。
流す涙はこれで最後だと決めて。
リーゼは先日の城下町での出来事を思い出した。あの時に違いない。
なぜあんなことが起こってしまったのだろう?
ただの偶然なのか、それとも誰かに仕組まれたことなのか?
リーゼがブラックオパールの瞳であることを知っているのは父親の大公、継母の大公妃ベルタ、義妹のイルメラ、そして幼馴染のフリッツの四人だけだったはず。
それを考えると偶然起きたことと考えた方が救われる気がした。
「狼筋の男の使者が来て、お前を生贄花嫁として差し出さねばこの大公国に攻め込むと言われてしまった。強大な兵力を持つ黒い森の管理者を敵に回したらこの国など一溜も無い。無力な父をどうか許しておくれ」
大公は涙を流して頭を下げた。父親の涙も頭を下げるところも見るのははじめてだった。
「お父様、お顔をお上げください」
顔を上げた大公にリーゼは笑顔で言った。
「私は呪われし子。お母様のお墓の隣に私のお墓もあります。本当であればもうとっくにこの世にはいない存在でした。それなのにお父様の御慈悲でここまで生かしてもらいました。お父様には感謝しかありません。お父様とこの国を守るためなら、私は生贄花嫁になっても構いません」
「リーゼよ……」
「だからお父様、もう泣かないで」
そういうリーゼも泣いていた。
二人は涙を流したまま抱きしめ合った。
父親の胸の中で普通の親子のようにはじめて大声を上げて泣いた。
流す涙はこれで最後だと決めて。


