「しかし下手に動けばヴェンデルガルトの言葉通りになってしまう。リーゼだけは何があっても死なせたくない。とにかく儀式を回避する方法を一日も早く見つけださねば。もう一ヵ月を切った」

「そうだね。次の満月の夜がいよいよその鬨だ」

「必ず、勝つぞ」

「うん」

二人は力強く見つめ合い、決意し合った。

ザシャが部屋を出ていくと、カミルはリーゼから聞いた本を読むため図書室へと向かった。

図書室にはもうずっと前からリーゼの香りがするようになっていた。読書好きだから、自由に出入りを許可した時からよく来ているのだろう。

リーゼが言っていたとおり、本棚に並んだ本の奥に隠すように置いてある大型本を見つけた。大型本を開くと中のページはくり抜かれていて、その中にタイトルのない古い一冊の本が入っている。

それはとても古い狼筋の文字で書いてあった。幼いころからあらゆる言語を学んできたカミルでも、古い狼筋の文字を読むのは翻訳作業に近い。

しかしこんな風に隠してあるのだから、何か秘密があるに違いない。読むしかないと覚悟を決めてパラパラとページを捲るとリーゼが言っていた通り、生贄花嫁の儀式と思われる挿絵があった。

興味深く見ているうちに、ひらりと一枚の肖像画が本の間から落ちてきた。立っている男性とその隣で椅子に腰かけている女性の肖像画。男性はどことなく自分に似ている。女性の方は知らない人物だ。いつ描かれたものだろう?

何気なく肖像画の裏を見たカミルは目を見張った。なぜならそこには「カミル6世とヴェンデルガルト」と書いてあったからだ。ヴェンデルガルト!? まさかこの女性はあの年老いた天邪鬼の魔女だというのか!?

目を凝らしてもう一度肖像画をよく見てみる。仮にヴェンデルガルトの若い頃と想像して見れば、たしかに目元や鼻筋に面影があり否定はしきれない。事実、ヴェンデルガルトはカミル6世と同じ時代を生きていて、122年前の生贄花嫁の儀式も目撃している。もしや、ヴェンデルガルトとカミル6世は恋人だったとか!?

「いやいやいや、有り得んだろ」

思わず独り言つほど信じられなかったが、ヴェンデルガルトが何かを知っているのにそれを隠しているのは間違いないと、カミルは確信した。