「あともう一息どころか、失敗したなら後退したのよ。次はもう失敗は許されない」

「あたし、本当にカミル様が好き。絶対にカミル様と結婚したいの」

「貴女がそんなにカミルに惹かれてしまうのも、必然なのかもしれないわね」

「必然？」

「今まで黙っていたけれど、貴女にも話す時が来たようだわ」

ベルタは部屋の扉を開けて誰も立ち聞きしていないことを確認してから再度部屋の中に入り、イルメラに話しだした。

「よく聞きなさい、イルメラ。あたくしたちはね、黒蛇筋の女なの」

「黒蛇筋！？　人間じゃないの？」

「邪悪な血筋と言われ迫害され続けた歴史の中で、あたくしたち黒蛇筋の一族はそうとは知られないよう、名を変え姿を変え生きていた。でも黒蛇筋の女の証としてあたくし達は、ブラックオパールの瞳を持って生まれてきているのよ」

「ブラックオパールの瞳ですって！？　そんなわけないわ。だって、お母様もあたしも普通の黒い瞳じゃない」

「そう見えるように死の森の薬品を使って変化させたのよ。お母様も貴女も生まれた時にね。黒蛇筋の女が生きていくためにはそうするしかないの」

「そんな……じゃあなぜヴォルフ家の当主はブラックオパールの瞳を持つ娘を生贄花嫁にするの？」

「それはかつて、ヴォルフ家当主の狼筋の男が黒蛇筋の女を愛したくせに裏切って森の支配者に寝返ったからよ。その裏切り者の当主と同じ名を持つカミル７世には、貴女と結婚してその償いをしてもらいましょう」

「理由なんてなんでもいい。カミル様と結婚できるなら。お母様、あたしどうすればいいの？」

「欲しい物があれば奪い取る。それだけよ。でも今は時がくるのを待ちましょう。リーゼが生贄花嫁になっていなくなるのをね。そうだもう一つ、貴女に秘密を教えておくわ」

「秘密？」

「ええ、取って置きの秘密をね」