だから、いい気になっていたリーゼを、少し懲らしめてあげただけ。

ニクラス5世の誕生日に嵐が来るかもしれないと聞いて、事前に金で無法者の木こりを雇っておいた。

そしてリーゼが地下の貯蔵庫に保管していた木苺を全部こっそりと、使われていない古井戸の中へ籠ごと投げ込んで捨てた。まんまとリーゼを嵐の森に誘き出すのに成功した。リーゼが木こりに襲われていなくなったとしても、誰もが嵐で遭難したと思うだろう。

諸事万端うまくいっていたのに。カミルが嵐の中リーゼを探しに行くことも、フリッツがリーゼを諦めて一緒に強制帰国させられることも計算外だった。

あともう少しでカミルと結婚できたはず!

大公国に戻ったイルメラは、カミルの城で起きた出来事をリーゼの継母でもある母親の大公妃ベルタにすべて話した。

「馬鹿な子ね。そんなことしなくても、リーゼが生贄花嫁になるのを待っていればよかったのに」

ベルタが冷たい目でイルメラを見る。

「だってお母様! ここではあんなに陰鬱だったリーゼが、カミル様に優しくされて生意気に浮かれていたのがどうしても許せなかったの」

「嵐にみせかけて襲わせたのはいい作戦だったけれどね。金で雇った木こりはどうしたの?」

「どうって?」

「始末したかって聞いてるの」

「してないわ。でも顔も姿も全部マントで隠して見られてないから、私だとは絶対バレないはずよ」

「本当に馬鹿な子ね。そういうことじゃないのよ、イルメラ。自分の娘でなければ殺したいくらいだわ」

鋭くベルタに睨まれて、実の母親にもかかわらずイルメラは震え上がった。

「市場でリーゼの包帯を取らせた大男を始末しなかった時にも言ったでしょ? 成功しようと失敗しようと、秘密を知る者はすべて消す。これがあたくし達の流儀よ。よく覚えておきなさい」

「はい、お母様。でもほんとカミル様のお城はすごかったわ。あともう一息で結婚できるところだったのに」