その後カミルは一人で、森のはずれに棲むヴェンデルガルトを手土産を持って訪ねた。

「クーックック、カミルの7代目。来るのが遅いよ。あたしの気はもう変わっちまったよ」

「昨日はリーゼを救けてもらい感謝する。これはその礼だ」

カミルは城から持ってきた家宝の水晶の原石を差し出した。

「これは! ドラゴンの息を凍らせた水晶じゃないか。こんないい物をくれるのかい?」

「リーゼの命に比べれば安いものだ」

「あーあ。あんたのそんな言葉を聞いたら、あんたに惚れてる森中の娘たちが嘆くだろうよ。あんた、ほんとにあの娘が好きなんだねえ」

「なぜリーゼが襲われると知っていた?」

「そりゃあ、あたしだって魔女だもの。それくらいわかるさ」

「誰が仕組んだことかも?」

「そんなことは知らないさ。あんただってもう知ってるんだろ」

「やはり思っているとおりということか」

「あんたの生贄花嫁の娘、運命なのか何なのか知らないがあんな瞳になって可哀そうな子だよ。聞きたいのはそれだけじゃないんだろ?」

「生贄花嫁の儀式を回避する方法だ。この前は本気でやるなら俺が命を落とすことになるとか言っていたが、何を隠している?」

「さあね」

「これ以上聞いても無駄だということか。邪魔したな」

カミルが出て行こうとするとヴェンデルガルトが呼び止めた。

「聞かれると言いたくないけど、聞かれないと言いたくなるのがあたしなのさ。ひとつヒントをやろう。あんたの好きなあのリーゼとかいう娘の命が、呪われしカミルの名の宿命を解放するだろう」

「何!? どういう意味だ? リーゼが死ぬということなのか?」

「そんなことは知らないさ。さあ帰った帰った。紅の月の夜が楽しみだねえ。クーックック」

リーゼの命が呪われしカミルの名の宿命を解放するだと? 俺の命と引き換えに? 

城への道すがらヴェンデルガルトとの問答を思い出しても答えはでなかった。しかし、必ずリーゼの命だけは護るとカミルは決意した。