すると廊下の窓の外の中庭で、召使たちが集まって騒いでいるのが見えた。

「どうしたんだ?」

中庭に出たカミルとザシャが声をかけると、召使の一人が答えた。

「昨日の嵐の大雨のせいで使っていなかった古井戸の中の水が増水して、それまで溜まっていたゴミが全部溢れ出てきたんです。それで皆で大掃除を」

「そうか、それはご苦労……ん? これは?」

古井戸から出てきたゴミの中に、籠に入った大量の果実のようなものがある。

「木苺です。まだ新鮮なのになんでこんなところに捨ててあったんですかね? 勿体ない」

その召使の言葉を聞いてザシャはカミルを見て言った。

「繋がった!」

「ああ。木苺を古井戸に捨てたのはイルメラだ。リーゼの性格をよく知っているイルメラは、木苺がなくなればお爺様のためなら嵐の中でもリーゼが摘みに行くことを知っていた」

「それで予め金で雇っておいた木こりにリーゼを襲わせたんだな?」

「もし帰ってこなくても、あんな嵐の夜なら誰だって遭難したと考える。まさか木こりを雇って襲わせていたなどと疑われることもない」

「なんてずる賢くて怖ろしい女なんだ」

「今から考えれば、リーゼが大公国の市場で包帯を取られてブラックオパールの瞳だと衆前に晒され、生贄花嫁の候補になったきっかけも、イルメラが仕組んだこともしれない」

「その可能性は高いね」

「先に逃げられたのが悔やまれる」

「どうする? 大公国へ行って捕まえる?」

「いや、リーゼを心配させたくない。それにまだ何か企んでいるかもしれない。とりあえずしばらく様子を見よう。だが、次に俺の目の前に現れた時は、ただでは置かない」

強い怒りを込めたカミルの青い瞳は、ザシャでさえ今まで見たことないほど厳しかった。