「なんだって!? そっか、あの時の狼の子が……二人はそんな縁で結ばれていたんだね。君を抱いてカミル様が城に戻ってきた時、二人の間に何かあったんだってことはすぐにわかったけれど……」

「だからやっぱり私、フリッツとは一緒に行けない。この城に残るわ。せっかく心配してくれたのに、ごめんね……」

「カミル様が好きなの?」

「……うん」

「でもカミル様は、君を生贄花嫁にしようとしているよ」

「……それでもいいの」

「えっ?」

「私、生贄花嫁でもいいの。それでも、カミル様と一緒にいたいの」

「そっか。こんなに意地悪なことを言っても、もう君の気持ちを変えることはできないんだね」

「ごめんね……」

「本当は、なんとなくこうなることはわかっていたんだ。なぜなら君は、僕のために笑ってくれることはあっても泣いてくれたことは一度もなかったから。それなのにあの男を想う時、君は涙を流す。どんなに酷い目にあっても泣かずに我慢してきた君が」

「フリッツ……」

「もうここに用はなくなった。僕は大公国に帰るよ。イルメラも連れて」

「えっ?」

「僕は大公国に帰ってイルメラと結婚式を挙げる、そして、大公国の継承者となる」

「そう。どうか、イルメラとお父様をよろしく」

「今は君が舞踏会の夜とは違って、とても幸せそうに見えるよ。カミル様も君のことが好きなんだね?」

リーゼは俯いたまま頷いた。フリッツはリーゼの顔を上げさせて見つめると、耳元で囁いた。

「さようなら。かわいかった僕だけのリーゼ」

そう言ってリーゼの左頬にキスしたフリッツはそのまま振り返らずに部屋から出て行った。