「俺はフリッツに嫉妬していた。だからあの舞踏会の夜、展望台で思ってもいないことを言ってしまった。本当はお前を大公国になんて帰したくない。でもお前のことを思うなら、フリッツと一緒に帰してやるべきだと思った。だからわざとあんな酷いことを言って、お前を帰そうとして泣かせてしまった。許してくれ」

「そうだったんですね……それならよかった。私、本当に生贄花嫁になりたいって思ってるんです。だからこのままカミル様のお城に置いてください。お願いします」

「リーゼ……俺ははじめて出会ったあの日からずっと、名前すら知らないお前を探していた。あの洞穴にも何度も行った。森の中も外もお前にもう一度会いたくて、何度も何回も探し回ったが見つけられなかった」

「そんなに探してくれてたなんて……」

「あんな監禁塔の中に幽閉されていたんじゃ香りも追えないはずだ。そして、やっと見つけた。お前は俺の命の恩人だ」

「そんな、大袈裟です。当り前のことをしただけです」

「いや、それだけじゃない」

カミルはリーゼの左目の包帯を解くと、両手でリーゼの両頬をやさしく包み込み真っ直ぐに見つめた。

「どれだけ想い続けてきただろう。どれだけ夢に見てきただろう。そのお前が今、俺の目の前にいる」

「……!?」

「俺ははじめて会った時からずっと……」

リーゼの心臓の鼓動が早くなる。

「ずっと、お前のことが好きだった」

「カミル様……」

「俺はもう迷わない。誰にも譲らない。お前は、俺のものだ」

「ほんと?」

「ああ」

「私もずっと隠してきたけれど本当は、カミル様が好きでした……」

もうカミルを好きな想いを隠すことができなかった。その必要もなかった。

「リーゼ……」

カミルの唇がそっとリーゼの唇に重ねられた。

リーゼは自分の命を、すべてを、カミルに捧げようと思った。