「私のために狼の姿にさせてしまったんですね。どうしよう、カミル様の寿命を奪ってしまった……」

「いいんだ、気にするな。お前が見つかって、本当によかった」

そう言ってカミルはリーゼの胸に顔を寄せた時、ドレスの胸元が引き裂かれているのに気付いて問い質した。リーゼは胸元を手で隠すと森で遭ったすべての出来事を話した。

「その木こりは、俺が殺す」

「どうかそんなことしないで。もう忘れるから」

「助けてくれたヴェンデルガルトにも手土産を持って礼に行かないとな」

リーゼはローブ一枚のほとんど裸のカミルの左腕を両手で持つと、深い傷痕の部分を自分の頬に当てた。

「あの時の小さな狼さんが、カミル様だったのですね」

「やっと、思い出してくれたのか?」

「湖の畔でこの傷痕を見せてくれた時に、すぐに思い出すべきでした。まさかあの小さくてかわいかった子が、こんなに素敵な大人の男性になっているなんて思いも寄らなかったから。気付くのが遅くなってしまってごめんなさい」

「あの時も洞穴の中で、ずっとこうやって俺の傷付いた身体を撫でてくれていた」

「全部はっきりと憶えています」

「なんだ、そうだったのか。俺は、フリッツに嫉妬していたというのに」

「えっ?」

「フリッツとの思い出はしっかりと憶えているのに、俺のことは全然思い出してくれなかったから」

「あはは、それならもっと早く言ってくれればよかったのに」

「俺だけ憶えてるなんて、女にモテてきた俺のプライドが許せない」

笑い合ったあと、カミルは真剣な眼差しでリーゼを見つめた。