「カミル、お前まさか……狼の姿になって探しにいこうとしているのか?」

エッカルト公爵がそう言うとニクラス五世が猛反対した。

「ならぬ! ならぬぞカミル! 狼の姿になればお前の寿命が……」

「構いません。リーゼは俺の花嫁です。俺が命を懸けて探し出します」

あまりのカミルの気迫に皆が驚き、誰も反対できなくなった。

「カミル、僕も一緒に行く」

申し出たザシャの肩にカミルは片手を置いた。

「もし万が一俺に何かあったら、次にこのヴォルフ家の当主になるのはお前だ。俺一人で行ってくる。あとは頼んだぞ」

「カミル……」

ザシャの肩から手を離し部屋を出ていこうとしたカミルの背後から、イルメラが抱きついた。

「行かないでカミル様。もしリーゼだけでなくカミル様まで失うことになったら……」

泣いてしがみ付くイルメラの頭をカミルは撫でた。

「心配するな。必ずリーゼを見つけて一緒に帰って来るから」

「はい……」

腰に回されたイルメラの腕を外し、カミルは嵐の中リーゼを探しに城から一人で出ていった。青い瞳に漆黒の毛並みが美しい、一匹の大きな黒い狼となって。

エッカルト公爵が言ったとおり、雷鳴が轟き暴風雨が激しく体に打ち付ける大嵐の中では、リーゼの匂いは全く追うことができなかった。

当て処がなくとも必死になって森中を駆け回って探したが見つけることが出来ない。もう探せるところもなく雷鳴が轟き稲妻が走る中、森を見渡せる丘の上で何度もリーゼを呼ぶ魂の叫びの遠吠えをした。

ふと雷鳴の合間に、微かにリーゼの泣く声が聞こえた気がした。もう一度耳を澄ますと、やはりリーゼの泣く声が聞こえる。カミルはその声を最後の頼りにして、丘の上から一目散に駆け下りた。