「お婆さんがその魔女さんなの?」

「そんなことは知らないさ。あんた、これから嵐が来るっていうのにそんな籠持って何処へ行くんだい?」

「バースデーケーキに飾る木苺を摘みに行くんです」

「何を呑気なことを。早く城へお帰り」

「でもお爺様と約束したから」

「お爺様? あの頑固者のニクラスの5代目か。まあ勝手にするがいい。でもあんた、これから危険な目に遭うよ?」

「えっ?」

「仕方ないねえ。よし、その左目を見せてくれた礼にこれをやろう」

ヴェンデルガルトは小瓶に入った茶色い液体をくれた。

「いいかい、これは黒蠍の猛毒だ。少しかけるだけで人間を麻痺させることができる。その時が来たら容赦なく使うんだよ」

「その時って?」

「そんなことは知らないさ。あたしは忠告したからね。カミルの7代目にはよろしく言っておくれよ。もちろん手ぶらで来るんじゃないってね」

そう言うや否や、ヴェンデルガルトはぱっと姿を消した。

城を出てきた時はまだ晴れていたのに、いつの間にか空は黒い雲に覆われはじめている。リーゼはヴェンデルガルトに貰った小瓶をローブのポケットにしまうと、再び森の中を走り出した。 一生懸命走って木苺の群生地に辿り着くと、前日少なからず残しておいた木苺はすべて誰かに摘まれてなくなっていた。

「どうしよう、1個も残ってない……」

リーゼが困っていると片手に斧を持ち顔中に髭を生やした大男の木こりが話しかけてきた。

「お嬢さん、どうしたんだい?」

「あ、木こりさん。木苺を摘みにきたのにもう1個も残ってなくて」

「ああ、それはすまない。おいらが先に全部摘んでしまったよ」

「そうでしたか……」

「もしよかったら、分けてやろうかい?」

「ほんと!?」

「ああ。おいらの家までついておいで」

リーゼは疑うことなく木こりの家へとついて行った。粗末な小さな小屋に着く頃にはぽつりぽつりと雨が降り出してきた。

「さあ、中に入んな」