ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

「危ないわ! 今日はもうすぐ嵐が来るらしいのよ!」

「大丈夫よ、すぐ戻ってくるから」

「どうしても行くのね。それなら早く帰って来てね、リーゼ」

「ありがとう、イルメラ」

まだ晴れてはいるが、念のため雨避け用のフードのついた大きめのローブを身に纏い籠を持ってリーゼは出て行った。

その後ろ姿を、イルメラがほくそ笑んで見ていた。

木苺の群生地は城から遠く離れた森のはずれにあった。昨日も同じ場所でたくさん摘んだからもうあまり残ってはないけれど、新規開拓している時間はない。

リーゼが森の中を走っていると、被ったフードの隙間から長い白髪を垂らし、顔は皺だらけで長い鉤鼻が上唇まで覆いかぶさった老婆が木立の間に立っていた。

「ちょいと、お嬢さん」

老婆がしゃがれた声で話しかけてくる。

「なんですか? お婆さん」

「あんた、なんでそんな左目に包帯なんて巻いてるんだい?」

「ああこれは……醜い瞳なんです。だから人に見られたくなくて隠してるんです」

「醜い瞳? それは興味深いねえ。どんな瞳なんだい?」

「……それは……」

「もうわかってるよ。あんたがブラックオパールの瞳の生贄花嫁なんだろ? カミルの7代目の」

「カミル様を知ってるの!?」

「そんなことは知らないさ。クークック。これはおもしろい。ここで会うのも合縁奇縁。あたしにもその瞳、見せておくれよ」

「いいですけど……見ても気味が悪いだけですよ」

リーゼは包帯を解いて、老婆に漆黒の虹彩に妖しく七色に光り輝くブラックオパールの瞳を見せた。

老婆はその長い鉤鼻をリーゼの小さな鼻にぶつかりそうなくらい近付けて、まじまじと瞳を覗き込むとにかっと笑った。生えている歯は下顎の一本だけだ。

「これは何とおもしろい! ああ、とてもいいものを見せてもらったよ。あんた名前は?」

「リーゼです」

「リーゼよ。城に帰ったらカミルの7代目に言っておやり。森のはずれに棲む年老いた魔女・ヴェンデルガルトを訪ねろってね。あたしの気が変わらないうちに」