睨み合う二人を両腕を掴まれたままリーゼが制止するが、二人とも譲らない。

「ここは俺の城だ。これ以上の無礼はやめてもらいたい。さもなくば今すぐ強制的に帰国させる」

渋々フリッツは掴んでいたリーゼの腕を離した。

「行くぞ」

リーゼは立ち尽くすフリッツを見つめながらもカミルに腕を引っ張られていった。

その様子を広間の柱の陰からイルメラが睨むように見つめていた。

カミルはリーゼの腕をぐいぐいと引っ張って、誰もいない城の天辺にあるドーム型の展望台まで連れていった。東の空から昇って来たばかりの薄い月影が二人を照らす。

「痛いです、カミル様。もう離して」

カミルは掴んでいた腕を離すとリーゼを見つめた。

「どうして俺を頼らない? なぜあいつを頼る?」

「……だって、フリッツはこんな私のことでも好きって言ってくれるけど、カミル様は私のことが好きじゃないから」

「何!?」

「カミル様が私に優しくするのは生贄花嫁にするためだけだから」

「それはちが……」

「いいんです! それは私もわかっているから。でも、フリッツには敬意を払って! フリッツに対するカミル様の態度はあまりにも酷すぎます!」

「……あいつが、好きなのか?」

「どうしてそんなこと聞くの? カミル様には関係ない」

「……あいつが好きなら、大公国に帰してやってもいい」

「え?」

「お爺様が言う通り、醜いお前よりももっと美しいブラックオパールの瞳の娘を探しだして、黒い森の支配者に生贄花嫁として捧げた方がいいからな」

「それが、カミル様の本心なんですね……」

「……ああ」

リーゼの右目から涙がこぼれた。

「仰せのままに!」

「リーゼ!」

カミルの呼び掛けにリーゼは振り返らなかった。

今はっきりとわかった。本当はカミルが好きなのだと。それなのに、醜いから大公国へ帰すという聞きたくなかった本心まで言われてしまった。今更好きだなんて絶対に言えない。

展望台から階下への螺旋階段を駆け下りながら、リーゼはカミルの前から逃げることしかできなかった。