ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

リーゼとは違い大公国の第一公女として歌にダンスをはじめあらゆる教養を身に付けているイルメラは、持ち前の華やかさと美しさもあって、カミルに抱き寄せられながら踊る姿は誰が見てもお似合いだった。ハイヒールの靴を履いていても足音ひとつさせていない。

遂には広間にいる全員が二人に見惚れて踊るのをやめ、広い空間をくるくると回りながら二人は自由自在に踊っている。まるでこの世界にはこの二人しかいないかのように。

「あのお嬢さんがきっと、美しいヴォルフ家の当主の花嫁になるのね」

「あのお嬢さん以上にお似合いの人なんてもう現れないわ。どこのお姫様かしら」

人々が話しているのを聞いてリーゼは広間の鏡に映った自分の姿を見た。

左目に包帯を巻いた見すぼらしくて醜い姿。一人の時に見るよりも、大勢の人の中で客観的に見る自分の姿は想像以上に醜かった。なぜこんな華やかな場所にのうのうと出て来てしまったんだろう!

リーゼは大広間から誰もいない暗闇のバルコニーへと逃げ込んだ。

そうだ、やっとわかった。自分にはあんなに嫌いだったあの大公国の監禁塔こそが、一番相応しい場所だったのだ。ただブラックオパールの瞳だからカミルは生贄花嫁として連れ出しただけ。それなのになんて思い上がっていたのだろう。

包帯を巻いていない右目から涙が溢れて止まらない。するとそっと後ろから誰かに肩を抱かれた。

「フリッツ!」

「こんなに惨めになるような仕打ちまでされて、かわいそうなリーゼ。もうこれ以上ここに居る必要はない。一緒に大公国に帰ろう。それか一緒に逃げてもいい」

涙を流したままリーゼが頷こうとした時だった。

「前にも言ったはずだ。俺の花嫁に気安く触るな」

そう言ってカミルが、リーゼの肩を抱いていたフリッツの手を掴み上げていた。フリッツは思いきりカミルの手を振り払う。

「俺の花嫁だと? 生贄花嫁のことだけじゃない。イルメラとあんな見せつけるように踊ったりして、こんなに彼女を酷く傷つけておいてよく言うよ。行こう、リーゼ」

リーゼの腕を掴みフリッツが連れて行こうとすると、リーゼのもう一方の腕をカミルが掴んだ。

「俺の女だ」

「リーゼはモノじゃない」

「やめて!」