この指輪は元々ドラゴンのものだったの? それとも同じ物が二つある?

このルビーの婚約指輪はカミル6世から伝わるものだとカミルは言っていた。いずれにしろこの挿絵は生贄花嫁の儀式を描いたものに違いない。儀式の夜、ここに描かれているように、炎を吐くドラゴンが現れるということなのだろうか。

わからないことばかりだ。本に書いてある内容を知りたくても字が読めない。最後までページを捲ると背表紙の内側に万年筆で何か書いてある。よく見てみるとそれは「カミル2世」のサインだった。

カミル2世……呪われし名を持つカミルの先祖。カミル2世はカミル1世の次代だから、はじめて生贄花嫁の儀式を執行した人物となる。この本はカミル2世のものなのかもしれない。

リーゼがもう一度パラパラとページを捲っていると、本の間から一枚の紙が落ちてきた。それは一組の男女のカップルが描かれた肖像画で、心倣しか男性の方はカミルに似ている。男性もハンサムだし女性も貴族のようで、格式のあるドレスを着て品があり美しい。しかしその瞳はブラックオパールではないから、生贄花嫁ではなさそうだ。

でもどうしてこの本は隠すように保管されているのだろう? 見てはいけないものなのだろうか? 生贄花嫁の儀式のことが書いてあるから? 本のことをカミルに聞こうかどうか迷っていた時、誰かが図書室への階段を上がってくる足音に気付いた。

リーゼは慌てて本を大型本の中にしまいこみ、元の場所に同じように隠して図書室を出た。

廊下の曲がり角に隠れて見ていると、やって来たのはカミルだった。本当は話しかけたいけれど、フリッツとのことで気まずいままだ。躊躇しているうちにカミルは図書室の中へと入って行った。リーゼはカミルに気付かれないよう、逆側の出口から別棟を出て自室へ戻った。