「当然だ。このまま生贄花嫁の儀式を回避する方法がなければ、フリッツと一緒にリーゼが逃げるのを見逃すしかない」

「フリッツとリーゼが逃げる? どういうこと?」

「フリッツがリーゼに告白するのを偶然聞いてしまった」

「フリッツもリーゼが好きなの!? それでどうするのさ?」

「どうもできない」

「もう早く好きだって告白したら?」

「駄目だ」

「どうして?」

「俺には当主としての責務がある。生贄花嫁を好きだなんて、口が裂けても言えない。それに……」

「それに?」

「フラれるのが怖い」

唖然とするザシャに、カミルは拗ねるように言った。

「だってどれだけ思い出す機会があっても、全然俺のことを思い出さないんだぞ? それにリーゼはフリッツが好きだったらしい。あの二人は今まで俺の知らない多くの時間と心を共有してきている。到底そこには入り込めない」

ザシャが呆れかえって言う。

「おいおい、今まで散々あらゆる森中の女を泣かせてきたお前が、なんてザマなんだよ」

「10年というリーゼを想い続けた年月が重く圧し掛かってくるんだ。フラれるくらいなら生贄花嫁として俺の傍に置いておきたい。でもリーゼを大切に思えば思うほど、彼女を傷つけてしまう」

「拗らせてるねえ」

「大体、自分を生贄花嫁にしようとしている男を好きになる女がどこにいる?」

「カミルってば……」

自虐的に笑うカミルをザシャが切なく見つめる。

「兎に角だ、俺が今できることは生贄花嫁の儀式を回避する方法を探すことだけだ」

「わかったよ。僕も協力するから」

「ありがとう、ザシャ」

二人は肩を組み合って微笑み合った。