イルメラの話を聞いて、追い打ちをかけるように嫉妬心は刺激された。リーゼもフリッツが好きだったとは。

たしかにリーゼの幸せを考えるなら今すぐ手離すべきだ。二人が両想いなら尚更。待てよ、他の男に取られるくらいならいっそのこと生贄花嫁に? いや、それだけは絶対にできない。とにかく今は自分の傍に置いておきたい。

本当はフリッツに負けないくらいリーゼが好きだ。許されるなら強引にでも攫って逃げてしまいたい。しかし自分には黒い森の管理者であるヴォルフ家当主として、また呪われしカミルの名を受け継ぐ者としての責務がある。簡単に生贄花嫁であるリーゼへの想いを口にすることはできない。

カミルの懊悩は止むことがなかった。リーゼを愛するが故に本心を見失い嫉妬心や猜疑心に苛まれ、感情を律することができない。堂々巡りするカミルの元へ、ザシャが白ワインを持って部屋に入って来た。

「ヴェンデルガルトから何か聞き出せた?」

カミルはヴェンデルガルトと話したことをザシャに話した。自分が死ぬことになると言われたこと以外。

「そうか、人間の世界に黒蛇筋の女が紛れ込んでいるのか。ということは、リーゼがブラックオパールの瞳なのも黒蛇筋だから?」

「いや。リーゼを見つけた時にケンプテン大公国のことも調べただろ? 父親の大公も亡くなった母親の大公妃も由緒ある人間の貴族出身の血筋だ。黒蛇筋とは考えにくい」

「たしかにリーゼの善良さたるや、黒蛇筋の邪悪さとは正反対だしね」

「打つ手なしだ……」

ぐいと一気にワインを飲み干したカミルの空になったワイングラスに、ザシャが追加でワインを注ぐ。

「でももう、愛しいリーゼを生贄花嫁になんかにできないでしょ?」