「カミル様がすでに御存知の通り、本当はあたしとリーゼは異母姉妹なんです。かわいそうなお姉様。実は、リーゼは元々フリッツのことが好きだったんです」

「何?」

「でも、リーゼはあの不幸な瞳のせいで大公国の第一公女という身分も継承権も奪われて監禁塔に幽閉された。あたしとお母様がどんなに説得しても、お父様はリーゼを監禁塔から出すことを許さなかった。そしてフリッツはあたしの許嫁となり、泣く泣くフリッツを諦めたリーゼはあたしに辛く当たるようになりました」

「まさか」

「信じられないですよね。でも誰もいないとリーゼはあたしには冷たいんです。無視されたり物を投げられたり。フリッツや城の召使たちにあたしの悪口を言いふらされたり。でもそれだけフリッツのことが好きなんだなって。だからあたしは、リーゼの願いを叶えてあげたい」

「何が言いたい?」

「無礼を承知で申し上げます。リーゼを大公国に帰してあげていただけないでしょうか?」

「……」

「フリッツも本当はあたしじゃなくてリーゼが好きなんです。あの二人が結ばれるならあたしはどうなってもいい。リーゼには幸せになってほしいんです」

「君のリーゼを想う気持ちはよくわかった。しかし、今すぐに返事はできない」

「そうですよね。ではあともうひとつだけ、言わせてください。あたしは、はじめてカミル様にお会いした日からずっと、お慕いしておりました」

イルメラは美しく大きな潤んだ黒い瞳でカミルを見つめると、カミルの胸に飛び込んだ。しがみ付いてくるイルメラの背中にカミルも手を回す。そのまま沈黙が流れるとイルメラはカミルから離れた。

「ごめんなさい、しゃべりすぎました。失礼します」

泣きながらイルメラが部屋を出ていく。カミルはソファーにもたれ込んだ。