ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

「駄目よ。私が生贄にならなければケンプテン大公国は攻め込まれてしまうのよ。それに、この森の生き物だってみんな死んでしまうわ」

「だからと言って、君が犠牲になる必要はない」

「でも、イルメラと結婚しないとフリッツだって、もう帰れる場所はないのよ」

「僕は構わない、どうなっても。君が一緒にいてくれれば……」

フリッツがリーゼを真剣に見つめて手を握った時、部屋の扉をノックする音がした。

リーゼが扉を開けると、皿に様々なトッピングのカナッペを持ったカミルが立っていた。

「また食事摂ってなかっただろ?」

「あっ、でも……」

部屋の中に入ろうとしたカミルはフリッツの姿を見つけた。

「ふーん、そういうことか。もう男を連れ込んでいるとはね、俺の城で」

「ち、違います! フリッツはお菓子を持って来てくれただけで……」

フリッツはソファーから立ち上がると部屋を出て行こうとした。

「せっかくのお客様だ。少し話そうじゃないか」

部屋に入ったカミルはフリッツをソファーに座らせ、自分はその向かい側に座った。リーゼはどこに座るべきか迷ったが、カミルの隣に座った。

カミルとフリッツは目も合わせずに、リーゼが淹れた紅茶を黙々と飲んでいる。昼間カミルに言われた「俺の前で二度とあの男に微笑むな。身体も触らせるな」という言葉が気になって、フリッツに話しかけることはできない。しかしその沈黙をカミルが破った。

「リーゼの幼馴染だとか」

「ええ。よく二人で誰もいない深夜の図書室で、本を読んだり遊んだりしていたんです。ね、リーゼ」

「うん」

「リーゼはどんな子だったんです?」

「かわいそうにその瞳のせいで監禁塔に幽閉されていたけれど、本当はとても明るくて活発な子なんですよ」

「やめてよ、フリッツ」

「二人で一度だけ監禁塔から抜け出して、黒い森へ木の子狩りに行ったこともあったね。その時リーゼが森の中で迷子になってしまって。とても心配したのを憶えてる」

「暗くなって帰れなくなってしまって。本当に怖かったわ」

「もし帰って来なかったらどうしようかと思った。君がいなくなったらどうしようって」