ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

「ああ」

リーゼは近くにあった踏み台を持って来てその上に乗り、背伸びをして本を取ろうとしたが届きそうで届かない。

「俺が取ってやろうか?」

ニヤニヤしながらリーゼの横から長身のカミルが手を伸ばそうとした。

「大丈夫です。あとちょっとだから」

リーゼが踏み台の上で、背伸びしたままジャンプした時だった。

「きゃっ!」

「あぶない!」

バランスを崩して踏み台から床に落ちたリーゼを、カミルが下敷きになって抱きかかえてくれていた。

「ごめんなさい」

カミルの顔が近い。

カミルの上に乗っているリーゼはすぐに離れようとしたが、カミルは抱きかかえた腕をさらにぎゅっとして離そうとしなかった。リーゼを真っ直ぐに見つめるその青い瞳は、何かに深く悩み揺れ動いているようにも見える。

「お前が、ブラックオパールの瞳を持つ娘でなければよかったのに……」

「どういう……意味?」

「お前を、生贄花嫁にしたくない」

「どうして? 私なら大丈夫。もうとっくに覚悟はできてるから」

「俺は、お前が……」

抱く腕にさらに力を入れてリーゼを動けなくしたカミルは、リーゼの唇に自分の唇を近付けていった。

もうこれは勘違いでも気のせいでもない! キスだ!

動けないままカミルの唇がリーゼの唇に触れそうになった時、跳ねるような足音が聞こえてきた。

「リーゼ様! ここにいたんですね! あっ!」

図書室に駆け込んできたのはラーラだった。リーゼは慌てて抱きしめられている両手を払い除け、カミルの体から離れた。

「ごめんなさいっ。お邪魔しました!」

出て行こうとしたラーラをリーゼが引き留める。

「違うのよ、ほら見て!」

転がっている踏み台を指差す。

「私が本を取ろうとして踏み台から落ちてしまったから、カミル様が下敷きになって助けてくれたのよ。本当よ。ねえ、カミル様」

「ああ」

カミルは床から立ち上がり、服についた埃を叩きながら憮然として答えた。

「それよりどうしたの? そんなに慌てて呼びにくるなんて」

「リーゼ様にお客様がみえています!」

「私にお客様!?」

予想外の出来事に、リーゼとカミルは顔を見合わせた。