ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

窓から入る太陽の逆光でさらに映える、狼のようにすっと整った鼻筋のカミルの横顔に見惚れていると、リーゼの方を振り向かないままカミルが言った。

「どうした?」

しまった。あまりに美しいからまた見惚れてしまった。

「あ、邪魔をしてごめんなさい、。少しお話しがしたくて」

「珍しいな。お前から俺に会いにくるなんて。何かあったのか?」

すぐに心配そうな顔をしたカミルを見て、普段は毅然としていてクールそうに見えるけれど本当はやさしい人なのだなと思った。

「あの、今日ニクラス様に聞きました。カミル様とザシャ様が私を庇ってくれてたって」

「別に」

「いいえ、ありがとうございます。そのおかげでニクラス様が私の名前も呼んでくださって、これからはお爺様と呼ぶようにとまで仰ってくれたんです!」

「あはは、それはすごい進歩だな。きっとお前のことが気に入ったのだろう」

「私というより、私が作るケーキかな」

「それは言えるかも」

楽しそうに笑うカミルの顔を見ると嬉しくなる。

「今度、お爺様のお誕生日に木苺のバースデーケーキを作る約束をしたんです。お爺様と仲良くなれそうなのが本当に嬉しくて。カミル様に早く伝えたかったの」

読んでいた本を閉じたカミルは、リーゼに歩み寄ると右手を彼女の左頬に当てた。

「苦手なお爺様にも努力してくれて、ありがとう」

カミルを好きかもしれないと意識しはじめたから、触れられたり見つめられると余計にドキドキしてしまう。

「すごいたくさんの本があるんですね」

リーゼは話題を逸らしてカミルの右手から逃れた。

「ヴォルフ家が成立した時からの所蔵本がすべてここにある」

「何の本を読んでるんですか? 黒蛇……筋?」

「少し調べたいことがあってな。本は好きか?」

「はい! 監禁塔に幽閉されていた時も、お父様が人のいない深夜にだけ入室することを許してくださって。自由に外出できない分、いろんなことを本に教えてもらったの」

「そうだったのか……」

「あっ、あそこに薬草に関する本があるわ」

「薬草に詳しいんだな」

「生まれた時から面倒をみてくれていたマルゴットが病弱だったから、いい薬が作れないか調べてたんです。あの本取って見てもいい?」