「そりゃあ黒い森の支配者の怒りを買って、あんたが管理する森の生きとし生けるものすべてが死ぬよ。あたしもあんたも植物も動物も一瞬でね。そして支配者は新しい管理者を置き、新たな森を作る。それだけさ。クーックック」

「生贄花嫁はブラックオパールの瞳を持つ娘でないと駄目なのか?」

「なるほどね。あんた、生贄花嫁にする娘が好きなんだね」

「……ああ」

「クーックック。よし、あたしに正直に答えた褒美にひとつ教えてやろう。ブラックオパールの瞳を持つ娘は他にもいる」

「どこにっ!? あれだけ探してもリーゼ以外見つからなかったのに……」

「黒蛇筋の女だよ。黒蛇筋の女はブラックオパールの瞳になる遺伝子を持っている」

「しかし黒蛇筋の一族は北の果ての死の森に逃げ込んでしまった。流石に死の森には入れない。入った途端に呪われてしまうからな」

「死の森だけじゃない。あいつらはあんたの嫌いな人間世界に紛れ込んで、支配者に見つからないよう姿形を変えて生きているよ。まあ来月までには到底見つけれっこないけどね。クーックック」

「それなら生贄花嫁の儀式を回避する方法を知らないか? もしくはこの馬鹿げた儀式を終わらせる方法を」

「あんた、本当に生贄花嫁の儀式を終わらせるつもりかい?」

「ああ」

それまでニヤニヤしていたヴェンデルガルトの表情が一変した。白目が黄色くなった目で鋭くカミルを見る。

「カミルの7代目よ。あんた本気なら死ぬことになるよ。それでもいいのかい?」

「構わない。俺の命でリーゼとヴォルフ家とこの森を護れるなら。それが俺の当主としての務めだ」

「クーックック。それはおもしろい! でもね、そんなことは知らないさ。さあ、もう帰っておくれ」

そう言って天井から吊り下がっていた黒蠍の丸焼きを美味しそうに食べはじめたヴェンデルガルトを見たカミルは、これ以上は何も聞き出せないと観念して魔女の家を後にした。